5/22 08:30 UP!
寝癖
今日は少し前の、ちょっと不思議なことを書こうと思います。
まだ肌寒いある日、川越にきていた。小江戸と言われる、浴衣姿の人々が華々しい観光地を抜けて、ディープな川越の「レコードが流れる」ことが売りのカフェに入った。
それは、想像を飛び越えてディープだった。面白いつまらなさがある。一般的な「つまらない」も集積すると面白くなっていく様に感じる。
あげるといとまがないけれど、そのカフェに流れる何にも追われないゆったりした時間が好きだった。
お店に入ると、「今起きました」と言わんばかりの寝癖がついた店主が、若干ヨレヨレしながら、今にも消えそうな「いらっしゃいませ」で迎えてくれた。初対面だけど、この人お昼ご飯ちゃんと食べたのかな、と要らぬ心配をしてしまう。心配するカフェは初めてで新鮮だ。
1階は空席だったが、2階に案内される。
2階も誰もいなかった。貸切だった。
窓際の席に座った。
小学校の校庭が見える。遊具がさびれていて、年季が入っていることがわかる。
どんよりとした雲。じめっとした空気。
全てがデジタルではなくアナログで、数値に追われていた僕は、この世界にもこういう場所はあったんだと安心する。
静かで良い。
座ってしばらく、本を開こうとした時、思い出した。
レコードが流れていない。静かで良いのだけれど。
周りを見渡す。
登ってきた階段の近くに、レコードプレーヤーは今にも落ちそうな形で室内干しの洗濯物のように吊るされていた。
すごい。絶妙な存在感。主役のはずなのに。
寝癖の店主が、階段にギシギシと音を吐かせながら水を運んできた。
レコードのこと、言おうかな、と思ったがやめた。寝起きの店主に余計な負担をかけるわけにはいかない。
りんごジュースを頼んだ。
なかなか運ばれてこない。
15分もかかるりんごジュースが気になった。ミキサーのおとは聴こえなかった。
市販のりんごジュースなら、注ぐのに15分かかることはなかなか想像できない。
いや、しかし一滴一滴丁寧に注いだら15分かかることもあるかもしれない。
15分ほどして運ばれてきたりんごジュースとはいかなるものか。
キンキンに冷えたわけでもなく生暖かく、そして優しい味がした。ここまで主張しないりんごジュースは初めてだった。
紙パックのりんごジュースだった。
美味しかった。
本を読む。
レコードが忘れた頃に「すみません」と申し訳程度の音量でかかった。聴いたことのない民族音楽だった。ジャンガジャンガというリズムが、アンガールズを想起させた。
「このカフェのこだわりって何かあるんですか?」帰り際、なんとなく店主とコミュニケーションを取りたくなり、というか余白しかないこのカフェの秘密を少しでも知りたくなってしまって、きいた。
「強いて言えば、昼はランチ、夜はディナーをやっています」
当たり前のことを言われた。
当たり前にこだわることが大切だということを店主は伝えたいのかもしれない、などと勝手に深読みした。
なんだかすっかりリフレッシュした僕は、のろのろとカフェのドアを開け、テキパキした現実に戻るのだった。
まだ肌寒いある日、川越にきていた。小江戸と言われる、浴衣姿の人々が華々しい観光地を抜けて、ディープな川越の「レコードが流れる」ことが売りのカフェに入った。
それは、想像を飛び越えてディープだった。面白いつまらなさがある。一般的な「つまらない」も集積すると面白くなっていく様に感じる。
あげるといとまがないけれど、そのカフェに流れる何にも追われないゆったりした時間が好きだった。
お店に入ると、「今起きました」と言わんばかりの寝癖がついた店主が、若干ヨレヨレしながら、今にも消えそうな「いらっしゃいませ」で迎えてくれた。初対面だけど、この人お昼ご飯ちゃんと食べたのかな、と要らぬ心配をしてしまう。心配するカフェは初めてで新鮮だ。
1階は空席だったが、2階に案内される。
2階も誰もいなかった。貸切だった。
窓際の席に座った。
小学校の校庭が見える。遊具がさびれていて、年季が入っていることがわかる。
どんよりとした雲。じめっとした空気。
全てがデジタルではなくアナログで、数値に追われていた僕は、この世界にもこういう場所はあったんだと安心する。
静かで良い。
座ってしばらく、本を開こうとした時、思い出した。
レコードが流れていない。静かで良いのだけれど。
周りを見渡す。
登ってきた階段の近くに、レコードプレーヤーは今にも落ちそうな形で室内干しの洗濯物のように吊るされていた。
すごい。絶妙な存在感。主役のはずなのに。
寝癖の店主が、階段にギシギシと音を吐かせながら水を運んできた。
レコードのこと、言おうかな、と思ったがやめた。寝起きの店主に余計な負担をかけるわけにはいかない。
りんごジュースを頼んだ。
なかなか運ばれてこない。
15分もかかるりんごジュースが気になった。ミキサーのおとは聴こえなかった。
市販のりんごジュースなら、注ぐのに15分かかることはなかなか想像できない。
いや、しかし一滴一滴丁寧に注いだら15分かかることもあるかもしれない。
15分ほどして運ばれてきたりんごジュースとはいかなるものか。
キンキンに冷えたわけでもなく生暖かく、そして優しい味がした。ここまで主張しないりんごジュースは初めてだった。
紙パックのりんごジュースだった。
美味しかった。
本を読む。
レコードが忘れた頃に「すみません」と申し訳程度の音量でかかった。聴いたことのない民族音楽だった。ジャンガジャンガというリズムが、アンガールズを想起させた。
「このカフェのこだわりって何かあるんですか?」帰り際、なんとなく店主とコミュニケーションを取りたくなり、というか余白しかないこのカフェの秘密を少しでも知りたくなってしまって、きいた。
「強いて言えば、昼はランチ、夜はディナーをやっています」
当たり前のことを言われた。
当たり前にこだわることが大切だということを店主は伝えたいのかもしれない、などと勝手に深読みした。
なんだかすっかりリフレッシュした僕は、のろのろとカフェのドアを開け、テキパキした現実に戻るのだった。




