夜は、記憶が厚く重なる時間だ。
昼間は押し込めていた不安が
ほんの少しのきっかけで浮き上がる。
誰かの言葉、
残された既読、
思い出の匂い──
そうしたものが
ひとつの夜を支配することがある。

あなたが抱える今夜の悲しみを
僕がそっと上書き保存します。
それは消す作業ではなく、
塗り替える作業。
悲しみの輪郭を薄めて、
代わりに優しさや
安心の線を重ねていく。
派手な約束や
大袈裟な儀式はいらない。
静かな声と、
許される距離と、
触れられる温度。
それだけで、古い傷は
少しずつ色あせていく。

明日が少しでも
愛おしく思えるように、
僕は小さな“おまじない”をかける。
それは、あなたが
自分を責めないように
することだったり、
深呼吸を一緒にすることだったり、
ただ隣にいることだったりする。
おまじないが効いたかどうかは
すぐにはわからないかもしれない。
でも、朝になって、目覚めた時に
胸の辺りが少し柔らかければ、
それが僕の仕事の証だ。

オオカミになっちゃうもんって言って、
理性を手放す瞬間もあるだろう。
わがままで手に負えなくなる夜もある。
どんな姿でもいい。
僕はそのままのあなたを可愛いと思う。
抱きしめることも、静かに見守ることも、
僕にできることは全部やるから。

今夜は、僕に預けてみてほしい。
上書き保存は終わったら
消えるものじゃなくて、
これからの景色を
ほんの少しだけ変えてくれる。
明日が来るのが、
少しだけ楽しみになるように。

＊ 広臣 - HIROOMI - ＊